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啄木行事レポート

第91回「啄木忌法要」「宝徳寺本堂襖絵展」

   2002年4月13日(土) 岩手県玉山村 宝徳寺

 畑から丘から柔らかそうな土から、いっせいに昇る湯気。電車は一気に、朝靄の中へつっこみ、停車しました。am 8:04 渋民駅着。徒歩で宝徳寺に向かいます。

 啄木が少年時代を過ごした玉山村渋民の宝徳寺で、91回目の啄木忌が行われ、同時に2000年に12枚発見された襖絵のうち「松桜図」2枚が公開されます。

● 第91回啄木忌法要

● 宝徳寺本堂襖絵展

● 講話「宝徳寺古文書について」 講師 佐々木祐子氏 


第91回「啄木忌法要」

法要に参加する人が次々に入る宝徳寺

 宝徳寺玄関には、次々に親族の方や檀家の方が集まってきます。1877年(明治10年)の火災で失われた本堂は、1890年(明治23年)啄木の父、当時十五世石川一禎代に再建されました。現在の本堂は二十世紀末に工事を開始、二十一世紀、2001年11月落慶法要(十八世住職:遊座芳章)をしました。

 

 

読経の後、参加者全員が焼香

 ここにいる誰もが写真の啄木よりも年を重ねています。一番若い青年啄木が、皆に囲まれて法要を行ってもらっています。本当は啄木はここにいる人たちの父や祖父や曾祖父に当たる年代なのに、まるで息子か孫のようです。お香の煙の向こうには、あのいつもの着物姿の啄木。まったく佳い写真を残したものです。本堂の窓の外には、屋根から落ちた雪がまだ残っていました。


 今日もまた胸に痛みあり。

  死ぬならば、

  ふるさとに行きて死なむと思ふ。 

啄木 
    

 地元の合唱グループが啄木の作品に題材を得た曲「今日もまた」を献歌しました。 

 

宝徳寺本堂襖絵展

「啄木の間」において、襖絵の公開

 啄木を見守った襖絵の公開は昨年に続き2回目です。啄木がここで過ごした一禎代には襖の張り替えはしなかったので、今見るこの襖絵に囲まれて啄木は成長したことになります。
 「啄木時代の襖絵」との決め手は、一禎の再建した本堂には桜や松の美しい襖絵があった―という古くからの言い伝えがあること。さらに襖の中からは1887年ごろまでの同地区の行政書類や新聞など約千枚を発見したこと。この資料が、襖絵の年代特定を決定的にしたということです。

  

 

本堂襖絵 松桜図B

 旧渋民村の絵師沼田北村<1867年(慶応3年)-1905年(明治38年)>により描かれました。川口月村に師事し、師の「月村」の一字を受けて北村と号したということです。 当時手に入りにくく高価だった岩絵の具を使って、縦175センチ、横82.5センチの画面に見事な枝振りの松と明るい桃色の桜が大胆に描かれています。
 下張りの和紙の上に直接白の下地絵の具を塗りその上に描かれました。そのために今でも絵を通して下の文字が読みとれます。

 


啄木の生活の記録 石川呉服店旧蔵 大福帳

 明治39年12月29日生まれの啄木の長女京子のために使用したものか。当時は産まれた子供の名前をキャラコに書き飾る習慣があったといいます。代金は支払ったとみえ抹消されています。

 

 

未払い金の記録

 明治40年2月24日石川呉服店大福帳には、「石川一殿 一円十五銭 大島染一反」とあり、抹消の跡がなく未払いのままかと思われます。

 

 

啄木・節子の写真,着物や煙草盆の展示

  

講話「宝徳寺古文書について」 講師 佐々木祐子氏 

 調査を進めてきた岩手古文書学会理事の佐々木祐子さんが話をされました。

  • 「宝徳寺再建のため杉の木を切った」ということについても、分からない事柄がたくさんある。資料を見ていくと、宝徳寺檀家の優しさ、村人の団結力、遊座一家の人徳などが感じられる。
  • 資料は全部集めなければ本当の姿は出てこない。資料によい悪いはない。
  • 記録を残すことは大事。啄木の詳しいことが分かったのも下張り文書があったから。
  • 100年以上たっても色あせない絵は歴史的な価値が高い。有能な画家北村の存在に象徴されるように、渋民の文化的風土が天才歌人啄木を生み、育てたのではないか。
  • 啄木の功績を浮き彫りにするため、いい面も悪い面も含めた資料の解読を進めていきたい。

「来年公開される襖絵はもっと素晴らしい」と熱をこめて話されたので、会場には期待の声があがりました。

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 寺の中庭には小さな太鼓橋、灯籠、松、つつじ。屋根の向こうに、青い空を突き刺す杉の木。そこに啄木鳥の声が重なります。

 後日、宝徳寺住職のお母さんの遊座英子さんから、「啄木忌にはよくおいでになりました。・・渋民もいよいよ田植え、閑古鳥の声もすぐです。当日は忙しくてろくにお話しもできず残念でした。また何時かゆっくりおいでくださいませ。」という、鳥の声の聞こえるようなお便りをいただきました。お世話になりました。どうもありがとうございます。


参考資料:第91回襖絵展しおり、萬年山寶徳寺落慶法要栞、岩手日報記事

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