啄木行事レポート
啄木学級 文の京(ふみのみやこ)講座
2007年7月1日 文京シビックホール
講演「啄木をめぐる女性たち」
講師 井沢元彦 氏
対談「啄木の女性観・恋愛観を中心に」 井沢元彦氏 山本玲子学芸員(石川啄木記念館)
天才歌人・石川啄木を生んだ盛岡市と、その文学的情熱が開花した文京区との共催により、文の京文化発信プロジェクト「啄木学級 文の京講座」を開催。
文京区区長・成澤廣修氏が「今日のために「理容アライ」(啄木旧居)でカットしてきました」とあいさつされた。
小奴といひし女の
やはらかき
耳朶なども忘れがたかり
「文京シビックホール」
名誉館長は黒柳徹子さん
● とんでもない男
私は、歴史上の好きな人は信長、家康など。もし信長が生きていて社長をしていたら、絶対その会社に入りたくない。なぜなら、社長が一番働くから。一番に出勤し、一番遅くまでいるから。
啄木は中学のとき節子と知り合う。節子の両親の大反対を押し切って結婚しようとした。しかし、啄木は自分の結婚式に新妻も親族も友人も待たせたまま、すっぽかしをするようなとんでもない男だった。
「江戸川乱歩賞作家の井沢元彦氏」
北海道に渡り新聞記者となるが、大火に遭い札幌、小樽、釧路と移動。釧路では筆が立つので、料亭に通い花柳界通信を書き新聞の部数を伸ばした。
小奴といひし女の
やはらかき
耳朶なども忘れがたかり
「耳朶など」の「など」とつかっている。「耳朶だけじゃないぞ。ほかも知っているぞ」という意味ではないか。ふたりはヤバイ関係じゃないかと思う。
よりそひて
深夜の雪の中に立つ
女の右手のあたたかさかな
啄木は小奴を妹のような存在といっているが、男が妹というときは、たとえば妻に対して「ぼくの彼女」とはいえないから妹といっているのではないか。
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- 展示「啄木をめぐる女性たち」
- パネルに注目が集まる
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● 啄木の妻になりたい?
啄木は金にルーズ。岩手県内に伝説がある。宮沢賢治の記念館を造る時は寄付がたくさん集まった。啄木記念館のときは「あいつには金を貸しているから、もういいや」とあまり集まらなかった。私の経験では、女をだますのが上手いやつは借金をするのも上手い。
私が江戸川乱歩賞をとったのは26歳。啄木が結核で亡くなったのが26歳。啄木が亡くなったとき節子も結核にかかっていた。そして、子供がおなかにいた。
啄木の妻になりたいか。……私はごめんだ。
26歳と少ししか生きなかった人だが深いものを持ち、ミステリアスだ。一歩離れてみるとたいへん面白そうな人だが、つきあうと大変な人だ。
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- 展示「啄木をめぐる女性たち」
- (左)立花さだ子 (中)啄木と節子 (右)橘智恵子
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○ 対談
「啄木の女性観・恋愛観を中心に」
井沢元彦氏 山本玲子学芸員(石川啄木記念館)
井沢/啄木は自分の結婚式をすっぽかした。ロクな男じゃない。
山本/それなりの訳がある。父が宝徳寺追放で謹慎中だった。息子が派手な行動はしたくないと思っていた。それなのに、盛岡の人たちは「節子がかわいそう」とさっさと式の準備をしてしまった。
井沢/啄木は「式に行けない」と知らせればよかった。
山本/当日、好摩駅からハガキは出した。
井沢/それではみんな待つじゃない。
山本/周りはみんな「結婚は止めなさい」というが節子の思いは深かった。啄木は結婚式に「自分が出なくても許してくれる」と甘えていたのかもしれない。
井沢氏「ロクな男じゃない」& 山本氏「正直な人」
井沢/彼にとって恋とはどんなものか。
山本/節子とが本当の恋。他の女性とは結婚を意識しない恋。啄木にとっては心のときめきや心の証だった。
井沢/啄木は外からみると妻を愛してないようにみえる。作品に妻があまり出てこない。
山本/節子を大切にしていたからこそ書けなかった。
井沢/愛する節子をなぜ家出させたか。
山本/節子は書き置きに「どうぞお母様を大切にしてください」と書いた。家出の原因は嫁姑の争いだった。節子は「私と姑とどちらを選ぶのか」と啄木を責めた。啄木は母も大切だから、どちらを選ぶということはできなかった。
「小ホールは満員」
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- 井沢/節子と宮崎郁雨との不倫はどうなの。
山本/不倫ではない。節子と啄木の間の溝だった。節子は郁雨を兄として慕っていた。啄木は上野さめ子のような近代的女性は好き。でも自分の妻になると、近代的な部分を許せなかった。
井沢/中途半端な人だね。古風な節子が不貞するなんて考えられないはず。それなのに不倫と考えるなんて人間が小さいんじゃない。
山本/郁雨といい仲になったんじゃないかと嫉妬した、と思う。
井沢/ローマ字日記に節子は出てくるか。
山本/はい。「世の女性で節子ほどかわいそうな女性はいない」「自分はどうして妻や子、母に束縛されなければならないのか。妻や子、母はなぜ自分に翻弄されなくてはならないか」と書いている。
井沢/自分のしていることを自覚していたんだ。
山本/自覚しているだけ許せるのでなないか。
井沢/だから啄木はいい人と思う?
山本/はい。
井沢/思いの丈の大きさを歌にするのが真の文学者ではないか。
山本/啄木を主人公にした小説を書く気持ちは?
井沢/意欲は今日、出てきた!
お土産は「啄木クリアファイル」
その昔
小学校の柾屋根に我が投げし鞠
いかにかなりけむ
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