啄木行事レポート
啄木学級東京講座
2006年7月4日 新宿明治安田生命ホール
○ 始業前
○ 1時間目 - 講演「文学と音楽の遭遇
〜実験・もし啄木にメロディーをつけたならどんな歌になるのだろう〜」
講師 新井 満 氏
○ 2時間目 - 対談「啄木の手紙に封印された真実と嘘を解読する」
新井 満 氏 山本玲子学芸員(石川啄木記念館)
○ 放課後
○ ひとこと
○ 始業前
ふるさとの山に向ひて
言ふことなし
ふるさとの山はありがたきかな
「盛岡デー・イン・東京」
メイン会場の新宿駅西口広場を飾る大ポスター
今年の啄木学級東京講座は、いつもの有楽町朝日スクエアではなく新宿で開催された。啄木生誕120周年、盛岡市玉山村合併記念の特別企画となっている。
新宿駅西口地下道のイベントコーナーがメイン会場。啄木学級の始まる前に、人々で賑わう会場を覗いた。
メイドイン盛岡展・観光キャンペーン・啄木賢治展などが開かれていた。
(詳しくはこのページの終りにあります)
○ 1時間目
講演「文学と音楽の遭遇
〜実験・もし啄木にメロディーをつけたならどんな歌になるのだろう〜」
「明治安田生命ホール入口の案内板」
● 墓参りが一番の趣味
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- ・私はさまざまなことをやっている。写真を撮ったり、歌を作ったり、歌ったり、本を書いたり……。よく人から「どれが本当の新井満か」と聞かれる。だから「一番の趣味は墓参り」と答える。
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- ・墓参りが好きになったのは・・・。
- 誰かの作品が好きになるとどこまでも追いかけていく。「好き」となったらその場から出発し、その人の家の門を叩き記念写真を撮らせてもらったりする。なぜそんなに急ぐかと言えば、いつかそのうちにと思っていると死んじゃうかもしれない。逢いたいと思ったらすぐか、せめて一週間くらいの間に逢いにいったほうがいい。
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- ・押し掛けていきたくなるような作家は、ほとんどこの世の人ではない。だから、お墓参りしかない。墓前にお参りし、瞼を閉じて立つ。暗闇の中で死者の声を聞く。「お前はだれか?」と問われたら自己紹介をする。死者は必ず墓にいるとは限らない。いないときは、死者が好きだった場所に行く。たいていはそこにいる。
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● 函館の墓前で「啄木の声」を聞く
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- ・雑誌「MOKU」の「お墓参りは楽しい」の連載は、函館の啄木の墓から始まったといっても過言ではない。
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- ・私が27歳のときだった。墓前で「こんにちは。はじめまして」と言った。すると、闇の奥から突然「どこのだれだ!」という若くて甲高い声が聞こえてきてびっくりした。
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- ・私は自己紹介をしてから、お願いをした。
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- 「あなたの短歌に曲をつけさせていただこうと思いまして」
- 「無理だね。歌にはならんよ。三十一文字しかないんだから、ちょっと短すぎる」
- 「たしかに。1首だけでは歌になりません。しかし、あなたが残した歌集のあっちから1首、
こっちから1首と集め、4首か5首並べると、ちょうどいい詞の塊ができます。その詞に曲をつけてみるのも、面白いんじゃないかと……」
- 「ふん。妙なこと、考える奴だな」
- 「やってみてもいいでしょうか」
- 「勝手にしろ!」
- 「感謝します」
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- 「“どこのだれだ!” と 啄木の声」
- 闇の彼方から 若い力強いことばが聞こえた
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- ・こんなことも聞いてみた。キーの高い早口のことばで啄木は答えてくれた。
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- 「夭折してよかったことはどんなことですか?」
- 「永遠に若いってことだよ」
- 「では、悪かったことは?」
- 「それはな……、永遠に若いってことだよ」
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- ・私は、曲を作り本当にシンガー・ソング・ライターになった。
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● 石川啄木 作詞・新井満 作曲、日本の叙情歌
- ・そして、山口洋子さんから五木ひろしさんのLPを頼まれた。啄木の短歌をあちこちから持ってきて組み合わせを考え、できあがった「塊」にメロディをつけた。「はじめから一つの歌ではなかったか」というぐらいまとまった曲になった。
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- ・石川啄木 作詞・新井満 作曲、「何処へ」(いづこへ)という題の日本の叙情歌は、<青春の愛とさすらい>と副題され、五木ひろしのLPレコードとして発売(ミノルフォンレコード)された。バクハツ的に・・・売れなかった。(笑)
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- ・なかなかいい歌で、皆さんが興味あれば歌いたい。(拍手)
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- 1「一握の砂」
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- 東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて
蟹とたはむる」
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- 潮かをる北の浜辺の
砂山のかの浜薔薇よ
今年も咲けるや
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- いのちなき砂のかなしさよ
さらさらと
握れば指のあひだより落つ
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- 大といふ字を百あまり
砂に書き
死ぬことをやめて帰り来れり
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- 頬につたふ
- なみだのごはず
一握の砂を示しし人を忘れず
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- ・啄木の短歌は作曲して初めて、大きなスケールの歌にできるのだとわかった。
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- ・二番目は、北海道の大地を汽車に乗ってさすらっている啄木のイメージで集めた歌。アップテンポでビートのきいた「タンタン タンタン」と汽車の旅が続くような、エイトビート・フォービートの曲がいいと思って作った。
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- 2「啄木さすらい」
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- 何事も思ふことなく
日一日
汽車のひびきに心まかせぬ
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- みぞれ降る
石狩の野の汽車に読みし
ツルゲエネフの物語かな
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- 忘れ来し煙草を思ふ
ゆけどゆけど
山なほ遠き雪の野の汽車
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- さいはての駅に下り立ち
雪あかり
さびしき町にあゆみ入りにき
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- しらしらと氷かがやき
千鳥なく
釧路の海の冬の月かな
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- 今夜こそ思ふ存分泣いてみむと
泊りし 宿屋の
茶のぬるさかな
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- ・啄木の短歌には大変な叙情があり気品があり艶がある。
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- 「啄木の歌には叙情があり気品があり艶がある」
- 上着を脱いだ サスペンダー姿はさらにダンディ
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- ・最後は、本邦初公開。CDを買おうとしてもどこにもない。まだ出していないから。
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- 3「啄木慕情」
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- 石狩の都の外の
君が家
林檎の花の散りてやあらむ
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- わかれ来て年を重ねて
年ごとに恋しくなれる
君にしあるかな
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- かの時に言ひそびれたる
大切の言葉は今も
胸にのこれど
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- 君に似し姿を街に見る時の
こころ躍りを
あはれと思へ -
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- ● おわりに
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- ・今日いらっしゃった方は、講演かコンサートか分からなくなってお帰りになるかもしれない。本当にいい歌で、聞いた人は「ほんとに、いい!」と皆さんおっしゃる。
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- ・「文学と音楽の遭遇」。もし、啄木の歌にメロディをつけたら一体どんなメロディになるかという実験をお聞きいただいた。
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○ 2時間目 対談
「啄木の手紙に封印された真実と嘘を解読する」
新井 満 氏 山本玲子学芸員(石川啄木記念館)
- 山本/
- 新井先生の先ほどのお話で「啄木の墓前」で聞いた声は、啄木の本当の声だと思う。啄木と親しかった佐々木喜善が「喜之床」を訪ねたときのことを「啄木は早口で話す人だった。人の話をよく聞き、娘のような声で返事をした」と書いている。
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- 新井/
- 墓参したとき聞いた声はそうだったんだよねぇ。
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- 山本/
- 羨ましい。どうしたら(亡くなった人の)声が聞こえるのか。
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- 新井/
- 墓にお参りし、辺りに同化し、木に同化して自分がいなくなったように感じたとき(亡くなった人の)声が聞こえてくる。
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- 「高田治作宛の手紙の巻物を広げる」<啄木記念館所蔵>
- 新井満氏がお持ちの手紙は 花の前の額に入っている
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- 新井/
- 私は、啄木が明治44年8月15日に出した高田治作宛の手紙を手に入れた。今日、持って来たので皆さんにお見せしたい。(係の方が額入りの手紙を持って各席を回る)
- 亡くなる8ヶ月前の病の床で書いた大変な手紙。いくらぐらいだと思うか。
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- 山本/
- 半紙1枚だから、100万円。封筒は50万円。合わせて150万と鑑定したい。
- でも、実はその手紙の本物は啄木記念館にある。啄木研究家の岩城之徳さんが、高田さんの奥さんから買った。お金がないので、岩城さんの奥さんの実家から借りてまで買ったもの。
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- 新井/
- じゃ、これは……………。・゚゚・(>_<;)・゚゚・。。
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- 手紙の中身は何が書いてあるの。
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- 山本/
- 前半は病気の様子を書き、途中からは「樹木と果実」を出せないという内容になっている。
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- 新井/
- 啄木の手紙がマーケットに出たらどのくらいするの。
-
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山本/
- 何年か前に啄木の未発表の原稿が5枚出た。コピーの一部を見せてもらったが本物だと思う。5枚で、5000万円といわれた。村長にも相談したが「とてもそんな…」といわれた。
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- 新井/
- 啄木はもう死んでいるから新たな手紙を書くわけにいかないからね。今日は、ちょっと夢がくだけてしまった(笑)。でも、(私の持っている手紙も)本物と思えば本物だから。
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- 啄木は手紙には真実を書いているの。
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山本/
- 真実というか、受け取る相手を気持ちよくさせるような文章になっている。
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- 「ますます啄木が好きになっていくなぁ」
- 「啄木記念館にもどうぞ!」
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- 新井/
- これからも、ますます啄木を好きになりそうだ。「組曲啄木」を書きたい。そして、啄木記念館にも行こうと思う。
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- 山本/
- ぜひ、どうぞ。先生の作曲を啄木は喜んでいると思う。
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○ 放課後
「盛岡デー・イン・東京」
メイン会場(2006年7月3〜5日)
新宿駅西口広場イベントコーナー
[MADE IN MORIOKA IN TOKYO]
盛岡市は「盛岡ブランド宣言」をしている
啄木のふるさと・盛岡の特産品の紹介と販売が行われていた。
- 「石川啄木・宮沢賢治 紹介コーナー」
- 啄木と賢治の年譜や、ゆかりの場所の写真など
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「冷めん・じゃじゃめん・地酒・民芸品」
どれもこれもあれも欲しい!
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- 「南部鉄器の型の製作実演」
- 実演者の真剣な手元に見入る
「新宿駅西口地下道」
前はホームレスの方を
たくさん見かけたが…
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- :*: ○ ひとこと :*:
・啄木はなんて新しいのでしょう。啄木の感性の新しさにドギモを抜かれました。
・新井満さんの歌声が響くと「エッ! ホントに啄木の歌?」と、なんども思いました。よく知っている啄木短歌なのに、聞いたことのない新鮮なことばの連なりに聞こえました。新井満さんの力がなせる技なのですが、直接啄木の声のように響きました。
「さんさ踊りの花笠も鮮やかに」
・企画しご準備してくださった方々、ありがとうございました。また、来年を楽しみにしています。
・啄木の魅力に惹きつけられていてよかった………と、あらためて感じた時間でした。
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