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啄木行事レポート

国際啄木学会〈春季セミナー〉

   2005年3月12日 明治大学  

  《合評会》

   テキスト『論集 石川啄木 』国際啄木学会編
       『漂泊過海的啄木論述』台湾啄木学会編

 

明治大学リバティタワーは 地上23階、地下3階
環境・省エネルギー建築賞受賞   


『論集 石川啄木』(国際啄木学会編)を読む

四つの座談会から学ぶこと、考えること   碓田のぼる

○1910年の夏から秋にかけて、時代の激変のなかで、いい回想歌がたくさん作られているのはなぜか

・《風姿花伝》の中で世阿弥が「たとえば怒れる風態をせん時には、柔らかなる心を忘るべからず(強い演技をするときは、柔らかい心でなくてはいけない)」と言っている。宮本百合子も「ファシズムと戦うときは柔らかい心を持っていなくてはいけない」と言っている。

・歌詠みとしては、内部がゆるゆるとロマンチックなときは、よいロマンチックな歌は出来ないとわかる。

○短歌革新の主体者はどんな人間がなるのか

・革新は青年こそ適している。
・正岡子規の短歌革新の流れを真の意味で発展的に引き継いでいるのは、正に啄木ではないか。
 

外国文学としての石川啄木         池田  功

○啄木が外国をどう認識していたか

・1904年(明治37年)18歳の啄木は姉を訪ねて北海道へ行く。10月1日、独逸船ヘレーン号で、ドイツ人らと英語で会話したという記述がある。

・啄木の国際情報源について近藤典彦氏は「英書・新聞・雑誌等を活用していた。そして、最高級の知識人などとの個人的接触から国際感覚を獲得していった」と述べている。
 
○外国から啄木はどう認識されているか
・周天明氏は、1926年『三・一八惨案』に関して魯迅が表した怒りの言葉「私は実は何も言うことはない。私はただ住んでいるところが、人の世ではないと思うだけだ。……」を引用し「魯迅の時代閉塞の感覚は、啄木のそれと共通するものである」といっている。 啄木だけの分析、日本だけの分析から一歩広い世界に出た感じがする。
 
・堀江信男氏が「応募論文のテーマのなかに、国際性、が正面から打ち出されたものがなかったということである」と述べている。国際啄木学会という名称である限り、「国際」という視点は大切である。今後の課題としたい。

 

受付わきに並んだ啄木文庫(関西啄木懇話会会誌)
& 東京支部会会報
  

・新しい啄木に出会う            山下多恵子

○新しいという言葉

・上田博氏の「石川啄木が愛読され続けるのは、石川啄木は新しいからである」と、近藤典彦氏の「啄木の文学や思想を世界に解き放つとき、啄木のなかに新しい啄木を見る」とが、巻頭とあとがきで見事に対応している。
 
・この「新しい」という言葉にこの論集の目指すものがあると考えた。

○五感を集めて立体的な啄木を捉える

・黒澤勉氏は、詩人啄木の耳に響き続けている音の風景を書いている。
 
・啄木は「さらさらと」落ちる砂の音、「たんたらたらたん」と落ちる雨だれ、「きしきしと」踏む廊下、「ちよんちよんと」鳴く頬白の声などを歌に詠んでいる。擬音語が多いのは、音が漫然とではなくクリアに聴こえている、耳の詩人啄木を証するものとなっているのではないか。
 
・耳だけでなく、目・鼻・舌・皮膚を使ってインクの匂い、酒の味、小奴の耳たぶなど身体が覚えているものも歌っている。
 
・啄木の五感が記憶しているものを集めてみれば、啄木の風景がもっと立体的に捉えられるのではないか。


・現代と明治の「通路」開拓         松村  洋

○「思想的な表層の論理と深層の危機感との二重構造」について

・小川武敏氏は、「深層の危機感」として時代への要請、若者たちへのいらだちに注目している。

・これに関連して「時代閉塞の現状」での、啄木の根底思想である社会主義はどんな種類のものだったか。現在、社会主義崩壊により社会主義思想はおとしめられている。しかし、資本主義のなかで現状を変える思想が必ず出てくると思われる。そのとき、それ以前の思想的関心、社会への目の向け方が探求されるのではないか。

・啄木はどういう目で社会を見ていたか。当時の社会をきちんと見ることで、啄木文学の中心である社会主義思想、啄木の見ていた社会的側面の研究につながると思われる。

  

「啄木がじっと見た手は表?裏」
(新聞の川柳欄より)

  

 

・源流と行方、表現とイメージ        田口 道昭

○疑問点

*平岡敏夫氏『空中戦艦が空にむれて/その下に あらゆる都府が こぼたれん! 戦は長くつづかん! 人びとの半ばは 骨となるらん!……』
・これは啄木の不安を語った文章ではないか。ここから東京回避が生まれて北海道に行ったのではないか。

*小川武敏氏「『時代閉塞の現状』執筆時から九月にかけて、日韓併合問題が啄木の批評意識のほとんどを占めていたことをうかがわせる」
・韓国併合批判がどこまであったのか。学術的にどこまでいえるのか。

*若林敦氏「啄木は、夫婦関係における高橋の『二重生活』を、『私』の言葉によって、誰もが経験する必要な行動の形として認めていると見てよい」
・夫婦関係の二重性を啄木は認めていたのか。啄木にはプラグマティズムがあったことは確かである。社会制度のなかに夫婦関係があるが、夫婦関係は人間関係だから、違うものといえるのかどうか。


『漂泊過海的啄木論述』(台湾啄木学会編)を読む

・啄木の「国際的」な研究          若林  敦

○啄木文学が世界の人びとに共感され、受け入れられる普遍性

*高淑玲氏「啄木の短歌の魅力は、制約を少なくして、韻律を自由に解放したところにあると思う。啄木の三行書き短歌は、その先駆性と伝統性との融和こそが啄木文学の独自性であり、日本国内のみならず国際的にも受け入れられている最も大切な条件の一つだと思われる」
 
よごれたる手を見るーー
 ちやうど
 この頃の自分の心に対ふがごとし。
啄木短歌は「句割れ」の活用によるシンコペーション的表現効果を生み出した。三行書きは、表記上、「韻律のリズム」と「意味のリズム」のズレをきわだたせることで、この効果を強める。
 
・文学における伝統の継承と創造というテーマは、それ自体が普遍性を持つ、実に大きなテーマである。このテーマで啄木文学が論じられることは、啄木文学の価値を、世界に解き放つことになるはずである。

メモをとる手が止まらない


<総括・講評> 太田登

・「近代短歌の危機」についての発表が必要である。

・先行研究への目配りが甘い。プライオリティをもっと高め、比較文学的広がりを持たねばならない。

・日常感覚と歴史感覚とのバランスを、啄木は同時代の詩人のなかでも鋭敏に感じ取っていた。


明大リバティタワーのエントランス

・啄木の三行書きにこだわっていくのは永遠の命題であり、今後の課題である。

・台湾での啄木の価値観は全く違う。「国際」という二文字を重く受け止めなければならない。

・文化の違う人から見れば、まだまだ啄木はわからないところが多い。

 

 

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