・『一握の砂』カバーはシンプルな活字文字。
・『あこがれ』カバーは青一色。
・ 『悲しき玩具』カバー絵はひょっとことおかめが背中合わせになっているようなデザイン。
・『呼子と口笛』の扉に描かれている絵
「日本近代文学館所蔵のこの未完の詩集は大学ノートを用いた手製であり、扉絵はそのノートの透かしを扉絵にふさわしい大きさに拡大しつつ啄木が模写したものである」。元の絵は「十九世紀に、カール・マルクスが使ったノートの表紙に、その絵があった・・・」。(『啄木 六の予言』近藤典彦 著 ネスコ発行)
女神像を囲む三重の楕円は小さく波打ち、また、きっちりとレタリングされた『呼子と口笛』の題字に、啄木の絵に対する興味やレタリング技術の高さを思った。
・『雲は天才である』の原稿は、直しのない整った文字。太い線、細い線がリズムを持って美しい。
明治四十一年日誌
神無月 十月一日
創作の興が少し動いて来た様な気がして、古く書いたものなどーー“雲は天才である。”の未定稿など取出してみた。いざ書かうと思ふと、ペンがダメになつてゐる。原稿紙も少い。これで折角の思立も、心が索然となつて水の泡。財布には五厘銅貨が二枚と電車の切符が一枚。
窓から見下してると、蜻蛉が飛んでゐる。盛岡が恋しかつた。与謝野氏からハガキ。
(『石川啄木全集』 第五巻 筑摩書房 1986)
書家の榊莫山に「・・若い啄木に、書を習った気配はみつからぬ。にもかかわらずこの手紙にみせる書の風姿は尋常ではない。造形のモダンさを心得て、毛筆のかなり高いところを持って、この軽快さと造形のたしかさをみせる啄木は、生まれつき天性の造形感覚をたっぷり持ちあわせていたにちがいない。(榊莫山「啄木の書」國文学1998.11)」と評された。
・夏目漱石や幸田露伴、武者小路実篤、太宰治、野上弥生子らとともにガラスケースに並ぶ啄木を眺めるのは、覗き見しているようなドキドキ感がある。